イジワル上司に恋をして


お店を出たのは夜の11時前。
駅までは少し距離はあったけど、終電には余裕で間に合う時間。それを確認したわたしは、急くことなく、西嶋さんの横に立っていた。


「遅くなっちゃったね」
「あ、はい。でも地下鉄は全然余裕ですし、明日は休みですから」


時間と共に、少しは落ち着いていたけれど、でも、それは本当に〝少し〟だけ。
いつ、あの話題が出されるかとそわそわしてしまう。
さっきの続きを聞きたいような、聞くのが怖いような……。だって、きっと、またわたしはなんにも反応が出来ずに硬直してしまうだろうから。

頭の片隅にそんなことを思いつつ、笑顔で答えたら、彼も何ら変わらない笑顔を返してくれた。


「そっか……。あ、じゃあ、駅までとりあえず歩こうか?」
「あ、えーと……はい」


前回も送ってくれたから、きっと今もそうなるとは思ってた。だから、今回は何も言わず、お言葉に甘えることにしよう。
そうしてわたしたちは、夜道を並んで歩いて行く。

お店に居たときよりも、少し口数が減ったように感じる。
駅について、ピタッと足を止めると、西嶋さんはくるりとわたしに向き直った。

――あ。来る。

そんなふうに、告白に不慣れなわたしでも今までの空気と一変したのを悟る。
ドキン、と再び心臓が跳ねると、それからはずっと落ち着くことのないまま。ドキドキという音が、まるで耳の傍から聞こえてるようだ。

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