イジワル上司に恋をして
俯いて自分を責めるけど、結局そういう心とは裏腹に、口では注文していたわけで。
もうあとは、ヤツとの距離が近くならずに済むことだけを願う。
店員に気を取られていて、黒川がどのあたりに案内されたのかを見逃した。
頭を動かさないように、目だけできょろきょろとあたりを確認する。
右の方にはいないみたい。左は……うん、大丈夫。
ホッと胸を撫で下ろす。と、不意に耳に届いたのは、聞きやすい高さの落ち着いた女性の声だ。
「あたしコーヒー。優哉は?」
背中越しに聞こえたものだけど。でも、その声だけで、自分とは違う〝大人感〟が感じられるってすごいと思う。
大人というか、色気とでもいうのか……。
正直、どれだけ歳を重ねたとしても、自分はそこには行きつかないと思うからちょっと悲しい。
項垂れるように、なんとなく後ろの席のお客さんに意識を向けていると、それに答える声にフリーズする。
「同じでいい」
短い言葉だったけど、その声はすぐにわかった。
まさか……まさか、真後ろにいるとは……!!
ちらりと限界まで視野を広げて察するに、どうやらわたしに背をむけるように座ってるのが、あの綺麗な女性の方で。で、向かい合って黒川が座っている様子。
……ってことは、だよ? アイツの視界には、常にわたしの後ろ姿が入っているってことになりませんかね?!
ああ……そういえば、アイツの名前、確かに『優哉』とかって言ってたかも!
悶絶するような状況に、もうどうにも出来ない。
それは、聞こうとしているわけでもないのに、二人の会話が耳に入って来るのも同様で……。