イジワル上司に恋をして

キスを何回かしたり……。
そんなことを言われると、途端にアイツを思い出しちゃうじゃん。

けど、アイツの気持ちなんかわからないし……もっと言えば自分の気持ちだってまだよくわかんないような……。


「鈴原さん? ドア閉まっちゃいますよー」
「え? あっ、ああ!」


慌ててエレベーターから飛び降りると、小首を傾げるように美優ちゃんがわたしを見てる。
そのつぶらな瞳を真っ直ぐに向けられると、その後に言われる〝なにか〟がものすごく怖いんですけど……。


「なんか、今日鈴原さん変だなーって思ってましたけど、もしかして鈴原さんも恋愛関係で一悶着あります?」
「なっ、ないない!」
「即否定するあたりが怪しいです。まさか、鈴原さんも微妙な相手が?」


まるで後ろへと追い込まれるような威圧感に、たじろぎ動揺してしまう。

っていうか、事実じりじりと美優ちゃんが詰め寄って来る。

トン、と背中に冷やりとしたエレベーターの扉を感じる。
ほとんど同じ背丈の美優ちゃんが小悪魔的笑顔を近づけてきた。

……まさか、一日に三度も壁ドンされるなんて――って、バカなこと考えてないで!


「ちょ、ちょっと美優ちゃ……」
「鈴原さん顔あかーい。かわいー」


なぜこんなことに。
こんな後輩にまで面白がられるほど、わたしって弄り甲斐のある人間なのか……。

くすくすと笑う彼女を見ながら、黒川に追い込まれたときのことを思い出す。

アイツのときは、背もあるし、やっぱ男だし……目力とかオーラとかもあるからもっとこう切羽詰まった感が……。


「あの前にショップに来たことある人ですか?」
「えっ……」
「優しそうな人でしたよね。でも、焦らされてるんですか? まぁ、男の人って見た目に寄らないで意外に悪かったりしますもんね」

< 268 / 372 >

この作品をシェア

pagetop