イジワル上司に恋をして

「お疲れさまでーす」


滞りなく仕事を終えて、明るくブライダル側に挨拶する美優ちゃんと、一緒にロッカー室へと向かう。
通しのシフトだったにもかかわらず、美優ちゃんがものすごく元気に見えるのは、気のせいじゃないよね。

そんなわたしの視線に気づいてしまったのか、エレベータ―の中で美優ちゃんと目が合ってしまった。


「あ……いや、なんか、いいことあったのかな? なんて……」
「わかります? そーなんですよー! この前の連休中で、ついに付き合うことになったんですっ。もー、ずっと中途半端な感じだったから、やっとって感じですよ」


最後の方は愚痴っぽい内容だったけど、表情が全然一致してない。

……相当、うれしいんだ。


「へぇ。そうなんだ! おめでとう」
「ありがとうございますっ。だけど、休み合わせて旅行に行かなかったら今頃はまだだらだらしてたかもですよー」
「……中途半端って言ってたけど……」


それってどういう段階までの話?
聞くのが怖かったけど、それよりも正直興味が湧いてしまって。つい口にしてしまった。

すると、上昇中のエレベーターの表示を見上げるようにして、美優ちゃんが口を尖らせながら言う。


「……休みの日はデートして。それで、なんとなく……キスくらいは何回かしたりして。もう、お互いに気持ちはわかってるんだけど、最後の決定的な言葉がないっていうか、確証がないままっていうか……そのままずるずると」


ポン、と音が鳴って扉が開く。
前に立っていた美優ちゃんが先に降りる背中を少しの間見つめてた。

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