イジワル上司に恋をして


「あっ。なの花! こっち!」


一軒の居酒屋に入るとすぐに、席を立って手を振る由美を見つける。


「ごめん。待った?」
「いや。わたしも今来たとこだから大丈夫」
「そっか、あ。とりあえず生ふたつ、お願いします」


おしぼりを持ってきた店員さんに、わたしはオーダーするとすぐに由美の正面に腰を下ろした。


「最近変わりないの? 色々と」


ゆるいパーマの黒髪を、コンパクトミラーで整えながら由美が言う毎回恒例の文句。


「なーんにも変わんないよ。毎日仕事行って、帰って、の、繰り返し」


かくいうわたしも、毎回同じ返事をしてる気がするけど。
そして大体この会話が終わるころに、一杯目の飲み物が来るんだ。


テーブルに置かれた、冷やされたジョッキを握ると、どちらからともなくそれを持ち上げて同時に言う。


「おつかれ」
「おつかれ」


コン、とジョッキをぶつけると、そのままお互いに喉を鳴らして豪快に飲み始めた。


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