イジワル上司に恋をして

わたし、鈴原なの花(すずはらなのか)と、由美は高校からの親友。
で、23になったわたしたちは、自然とお酒を呑み交わすようにもなったのだけど。


「あー。ようやく休みだ。土日休みっていうのはいいのか悪いのかって感じ」


そんなわたしと由美の違いは、“社員”と“バイト”ってこと。


「んー……わたしはシフトだからなぁ。だけど土日なんてほとんど休めないよ、逆に」


由美とは大学も一緒だったけど、そのときは明るい色合いの髪だった。その髪を真っ黒にして、きゅ、と清潔に束ねて彼女は銀行の窓口に座ってる。

美人で頭の回転も速い由美だから、きっと職場でも頼られたり期待されたりするポジションにいる、と、わたしは想像してるんだけど。


それに比べてわたし。


就職活動も上手く波に乗り切ることが出来ずに、結局フルタイムの契約で、今の職場に勤め始めてからずっと続けている。

でも一応“社員登用制度あり”って募集には書いてたんだけど、そういう話は待てど暮らせど出やしないし。なにより自分が『このままでいっか』なんて甘い気持ちでいるから現状はなにも変わらないんだと思う。


「そうだよねぇ。やっぱり、忙しい?」
「うーん……正直自分の持ち場はさほど変わらない、かな」
「でもブライダルの手伝いもしてるんでしょ?」
「『手伝い』っていうほどのモンじゃないよ。ただのお茶出し」


そう。わたしの“持ち場”っていうのが、ホテルのショップの店員。
それはやっぱりコンビニともまた違うから、ものすごい激務でもなく……どちらかというと平穏で。

けれど、だからといって、暇かと言えばそうでもない。


そのわけは、隣接されたブライダルサロンにある。


ショップも見ながら、隣のブライダルに来たお客様にお茶を出したり、たまに簡単な作業を手伝ったりするのだ。
それがまたこなせない程ではない、いい具合の仕事量で。

そこそこの充実感と、就業時間が経つ速さと。

加えてショップの上司でもある、ブライダルの部長とチーフがいい人となれば、居心地もよくなってしまう。

……まぁ、収入はギリギリではあるけど。


< 4 / 372 >

この作品をシェア

pagetop