大人の臆病【短編】
「…克己、私帰るね。」


この熱い夜が終わればまた彼との何も無い日常に戻る。


私は彼との時間が増えると、普段の日常に戻れない様な気がして

この行為が終わるとすぐさま彼の家を出る。


この事を彼は何も言わない。

引き止める訳でもない。

ただ、私が服を着て彼の部屋から出て行くのを見ているだけ。


本当は少しでも彼の側に居たい。

彼の隣で温かい朝を迎えてみたい。


臆病な私はまだ側に居たいなんて言葉が言えない。

その事を言ったら私の気持が分かってしまうから。


彼の迷惑そうな顔を見るのが只、怖い…



彼の自宅を出て暗い道、私は1人歩いて帰る。


この1人の時間に彼の温もりを掻き消して日常の何も無い私に戻るのだ。


彼の温もりを抱いたままだと、私の心が張り裂けそうになるから…


普通に出来なくなってしまうから…




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