夏音の風
夏音は全校集会の時も整列すると前から二番目くらいの位置に並ばされるくらい小柄な体格だった。
その結果どうなるかというと、夏音は目の前の青年を見上げる形となるのだ。
「助けてくれて、ありがとう」
恥ずかしさ半分、期待半分。小声でそう伝えると夏音は頬を真っ赤に染めた……はずだった。
「”ございます”は?」
「え?」
「だから、ありがとうじゃなくて。ありがとう”ございます”だろ」
――この瞬間までは。
この男は、拗ねたようにツンとした態度にどこか子供っぽさを感じる。
……どうなってるの、私。
見た目はイケメンで、中身は王子様って設定はどこいったのよ!
これだと自分よりもずっと大人で十分イケメンのレベルに達しているけど、中身は……まるでガキじゃない。
すると、今度は納得がいかない様子の夏音の太腿にスルリと冷たい何かが這うように触れる。
「冷たっ」
思わずそう反応すると、恐る恐る自分の視線を足元へと下(さ)げた。