夏音の風
「去れ」
頭に響くような低い声が夏音の頭上を走っていく。耳に響くというより、全身が震えるような声を背後で感じたのだ。
その声に気を取られていると、目の前のモノは一瞬で砂のような粒子で包まれるようにその姿を消した。
あのバケモノを一喝して消した?
自分の夢なのに、こんな展開様子出来なかった。
さっきまでの恐怖はどこにいったのか。夏音は自分でも不思議なくらいに冷静さを取り戻す。
こうなると、自分を助けた人物のことが気になった。
こういうのは夢の中なんだから、イケメンで中身も王子様じゃないと。
恋愛とかには興味ないだけど、やっぱり夢の中でくらいは空想を抱いてもいいと思う。
夏音はそんな身勝手なことを考えながらもゆっくりと後ろを振り返ってみた。
「大丈夫か?」
目が合うなり、その青年は夏音の両肩を掴んだ。
正面から確認すると、夏音が望んだ通り顔はクラスの男子の数百倍はいい。
背丈も180センチはありそうで、夏音から見たら十分大人の男だった。