*華月譚*雪ノ章 若宮と白狐の恋物語
「そういえば、女房たちの噂話を小耳に挟んだのですが。


沙霧の兄上が突然お姿をお隠しになられたそうですね」






軽部宮の言葉に朝日宮が頷く。






「えぇ、そうなんです。


数日前に、本当に突然………。



兄上がお使いになっている部屋の文机(ふづくえ)には、置き文が一通だけありました。




『ぬばたまの夜の帳を振りわけて


いにしえびとにいつか会はなむ』




夜の闇を抜けて昔の友人に会いに行く、といった意味でしょうが。



いったいどうして急にそんなことを言い出されたのか、本当に伴も連れずにどこかに出かけられたのかと、不思議に思っていたら。



何日たってもお戻りになられないのです」







朝日宮の沈んだ声に、軽部宮と軽戸宮は心配そうな顔になる。





「………まぁ、そうお気を落としにならずに。


沙霧の兄上はご立派な成人でいらっしゃるのですから、もうしばらく待てば帰ってみえるのではないでしょうか」






「………お慰めいただき、ありがとうございます」






それだけをなんとか口に出し、朝日宮は一礼して歩き出した。






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