センセイの白衣
息苦しい日々の中、やってきた三者面談。

担任の威圧的な態度は、さらに私を息苦しくさせる。

暑い夏の日だったからかもしれないけれど。

私の額に浮かんでいたのは、冷や汗だったと思う。



「横内さん。」


「はい。」



母と一緒に、がらんとした教室に入る。

私は、緊張で夏なのに指先まで冷たい。



「晴子さんの志望は、医学部医学科、ということでいいですよね?」



嘲るような笑みを浮かべて、担任が私を見る。

この人のこの表情は、いつまで経っても慣れないと思う。



「はい。」


「お母さんは、これに対してどうお考えですか?」


「ええ、娘に任せているのですが、医学部に進学できたら、それは親としても嬉しいです。」


「晴子さん、県内での進学を希望していますね。それはどうしてですか?」


「あ、それはやはり、医学部は6年間通うわけですし、うちは母子家庭なので……、」


「経済的なことを考えて、ということですね?」


「はい。そうです。」



模範的なことを言ってみたつもりだった。

だけど、実際には母子家庭で困ったことなんてなかったから。

そんなに気にしてたわけじゃない。

ただ、県内の医学部に進学するのが、何となく一番いいような気がしていた。



「今の成績を維持し続ければ、医学部も現実的になるでしょう。でも、数学が少し苦手ですか?」


「あ……、はい。」



担任の教科、数学。

私はまだ1年生なのに、少しずつ苦手意識を持ち始めていた。

担任に対する苦手意識と、比例していたのかもしれない。



「これから、どんどん難しくなります。付いてこられますか?」


「えと……。頑張り、ます。」


「そうですね。頑張らないといけません。どれくらい頑張るか分かりますか?」



じりじりと追い詰められる感覚に、思わず後ろを振り返りたくなる。

担任のぎょろりとした目が、私を射抜く。



「医師という職業は大変ですよ。48時間勤務の日もあります。人間の命を預かるわけですから、失敗は許されない。ずっと気を張っていなくてはならないのです。」


「はい。」


「あなたに、その覚悟がありますか?……いや、覚悟だけではない。知力と、体力と。」



間違っていない。

担任は、淡々と現実を述べているだけだ。

私が見ていた幻想を、ひとつずつ打ち砕いていくだけだ―――



だけど、何の意味があるの?

私を追い詰めて、夢じゃなくて現実を見させることに。



私は、ただ苦しかった。

担任に、ひたすら責められているような気がして。

もう、どこにも逃げ場はなかった。
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