ツンデレ社長と小心者のあたしと……
高層ビルが段々と近付いてくると、あたしの心臓はそのビルを飛び越えてしまいそうなくらいに高鳴っていた。
どうして今ここで、社長と一緒にいるのかすら忘れてしまいそう。
いや、本当はまだよく分かっていない。
「取材の事で悩んでいる」
と言ったらついてこいと言われただけだ。
密かに憧れていた社長に誘われて、断る理由はない。
けれど……まさかその先が社長の自宅だったとは想像していなかった。
マンションへ到着し、乗り込んだエレベーターの中は土足で良いのか悩むくらい毛足の長い絨毯が敷かれている。
天井には豪華なシャンデリア。
居住フロアに着くと、社長は指紋認証で自動ドアを開いた。
本当に来てしまったという思いで、息が苦しくなる。
「そんな顔してると食っちゃうよ」
かちんこちんになっている私を見て、茶化す社長。
けれど、何ならお召し上がりいただいて構わない、と思ってしまうほどの魅力に気付いているのだろうか。
「彼女になる」
なんてことは絶対に無理だから……。
それなら一夜だけでも触れてみたい、そんな願望がないと言ったら嘘になる。
それは、小心者なあたしのささやかな祈り。
社長をあたしに刻み込んでくれたなら、あたし自身強くなれそうな、そんな気がした。
まあ、こんな心境がバレたら、
「他人に頼るんじゃねえ」
って怒られるんだろうけど。
そんなことを考えていると、いつの間にか玄関に到着。
「はい、着いたっと」
「……お邪魔……します」