ツンデレ社長と小心者のあたしと……


社長がこうして歩いている事は、実は珍しい。


運動嫌いだという訳では無くて、単純に時間がもったいないからなんだと出会った頃聞いた。


空き時間にジムで汗を流している事もあるらしいから、日中動かない割に筋肉はある。


分刻みのスケジュールの中で、電車に乗る時間は待ち時間も多く、しかもビジネスに必要なスマホやパソコンに機材も使う事が難しい。


だから、基本的にタクシー利用なんだそう。


けれど、今日は違った。


「たまには、外の空気でも吸うか」


と、地下鉄を選んだのは社長。


忙しいけれど、プライベートの時間はあくせくしたりしない。


しっかりと睡眠時間は取るし、女の子の為の時間なら尚更……というのは風の噂。


起業家である彼の周りにはメディア関係の人間が溢れ、ちょっとしたパーティーとなれば芸能人だってちらほら見かける事もある。


「別に女に困ってなんかないよ」


前にそう言っていたけれど、それならばどうして今ただの社員であるあたしと腕を組んで歩いているのだろう。


この先が恐れ多いのか、単純に怖いのか、きゅっと腕に力を入れると、社長はふっと笑う。


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