となり



3時のおやつはグレープフルーツゼリー。




アイツが好きな食べ物だ。




…またアイツのこと考えてる。




しょうがない。




意地を張っても意味ないから、私が折れてあげるとしよう。




ゼリーをお見舞いに届けるだけだ。




アイツのママさんに手渡すだけ。




決してアイツに会いに行くわけではない。




歩いて数十秒。




距離にして30m。




数時間前も見上げたアイツの家の前。




入ろうと意気込んで、扉を開けようとして慌ててチャイムを押す。




…この家のチャイムを押すのはいつ振りだろうか。




いつもはアイツと一緒だからチャイムなんて久しぶりに押した。




危うく他人の家に無断で入るところだったのだ。




習慣というものは、恐ろしい。




「はーい‼︎…あら、喜嬉ちゃん‼︎」

「ゼリー持ってきたよ」

「湊なら部屋にいるわよ〜」

「インフルが移るから近寄るなって怒られた。だからこれ、渡しといて?」

「あらあら。まぁ、お茶でも飲もう」

「うん」




毎日顔を合わせているから第二の母親。




敬語なんて使った記憶もないし、使えと言われた記憶もない。




「でも、どうしてチャイム鳴らしたの?」

「だって、湊一緒じゃなかったから」

「ふふふ。いいのよ〜喜嬉ちゃんはもう私の娘みたいなものじゃない」

「嬉しい」




その言葉は非常に嬉しい。




しかし忘れるでない。




アイツと私は他人だ。




他人の家に入るのに、無断で入って良いのだろうか。




いや、言い訳ない。




アイツのママさんもまた、洗脳されてしまっている。




洗脳というものは、恐ろしい。



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