Sweet*Princess



誰も来ない通路


壁にもたれてうなだれる俺の頬を涼子さんが撫でる。




桐生家の現会長の後妻の涼子さんと


麻生家次期会長の俺



決して結ばれるはずのない二人が、一緒になれるんじゃないかと


叶わぬ夢を見たのはいつだったか。



もう俺には、思い出せないけれど。




「好きな娘が、できたのね」


涼子さんは微笑みを崩さないまま言った。


一方で、泣きそうな顔で頷くしかできない子どもな俺。


まったく違う相手だからこそ惹かれ合ったんだと思う。



「いつかこんな日が来るんじゃないかと思ってたわ」


「涼子さん…」


「私たちは契約の関係でしょう?」



『契約の関係』


確かにそうだった。


でも違うでしょう?


俺たちはもっと深くで繋がっていた。


愛情のもっと上


『依存』という形で。



薄っぺらい契約なんかで説明できるような関係じゃなかった。



ねぇ、涼子さん。


一人にしてごめんね。



本当は弱いあなたを


誰よりも人の痛みがわかる繊細なあなたを


一人にする自分勝手な俺を許して。



この腕で守りたいものを見つけてしまったんだ。


「愛してたよ、世界一」



「私も」


涙が止まらない。


あなたと初めて出会った日も、俺は泣いてた気がするな。



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