Sweet*Princess



「あの…、離してください!」


これ以上このままでいると、美和さんが帰ってきてしまうかも知れない。


それに……、また泣いちゃうよ…



壱斗を困らせるだけだよ…!



「離、して…」


抵抗し始めた私を、壱斗はすごい力で腕の中に閉じ込める。



「なんで、こんなこと……っ」


「兄貴だけはやめて……」


「………っ」



壱斗、泣いてるの?


声が震えてる……



「頼むから、兄貴だけは……」


ねぇ、壱斗


そろそろ過去と向き合わなきゃ。



「壱斗先輩」


聞き慣れない呼び名は、彼の心を深く抉った。


そのショックからか……


彼の腕は少し緩む。



緩んだ隙に、姫乃は彼の腕から逃れた。



「壱斗先輩はもう、気付いてるんでしょ?」


「………」


「お父様もお母様も、あなたを愛してる。それに雅斗さんも……あなたを傷つけたことを忘れられなくて、あなたを必死に守ろうとしてる。……もう、気付いてるでしょう?」


「姫、乃……」


「先輩はもう、子どもじゃない。きっと掴めるよ。自分の手で……一番『必要』なものを」


「姫乃、俺……っ」


「じゃぁ私、帰りますね。」



もう後ろは振り向かない。


あの腕はもう、忘れるんだ……



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