私は男を見る目がないらしい。
 

「お恥ずかしながら。よく同僚に引っ張られて混ざるんですけど、一昨年はそのせいで大切にしている万年筆を落としてしまったんですよね。散々サンバ隊に揉みくちゃにされた後に万年筆がないことに気付いた時にはすごく焦って、必死に探したんです」

「え。それ、見つかったんですか?明かりがあるとは言っても、人はたくさん行き交ってるし結構暗いですよね?」

「何とか見つかりました。一緒に探してくれた親切な方がいて。全然見知らぬ人だったから、迷惑かけたな、と今でも少し罪悪感が残ってるんですけどね」

「へぇ~、万年筆……」


万年筆の探しものって何か聞いたことがある気がする、と思いながら、ふと脳裏に一昨年のオクトーバーフェストのことが蘇る。

そうだ。サンバ隊に混ざってわいわいしたのはその時だった。

理子さんの腰遣いがすごくて、エッチで、みんなで大爆笑してたっけ。

男性陣や周りに居た男の人たちはガン見して鼻の下を伸ばしていたけど。

散々リズムに乗ってサンバ隊が違う場所に移動し始めたところで元居た場所に戻ろうとした時……ふと視界に移ったのは、一人ポツンと地面にうずくまるスーツ姿の男の人だった。

具合でも悪いのだろうかと、私はみんなから離れてその人に近付いて、声を掛けた。

そして、振り返ったのは……

 
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