私は男を見る目がないらしい。
 

……つい3日前にテレビが告げていた、例年よりも1週間も早い梅雨明け。

すっかり外は夏の陽気だ。

外に出て5分もすればじっとりと汗ばむような暑い日、蝉の鳴く声が街中に響き、行き交う人たちは蝉に負けないようにおしゃべりを繰り広げている。

そんな雑踏の中、私は彼氏とのデートの待ち合わせ場所であるダーツバーに最寄の駅から歩いて向かっていた。


ダーツバーの入っているビルに到着すると、汗が浮かんでしまった肌を建物内のひんやりとした空気が冷やしてくれる。

私はカバンの中からハンカチと手鏡を取り出して、メイクが落ちないように丁寧に汗を拭き取りながら、エレベーターでダーツバーのある5階に向かった。

目の前の扉を開ければダーツバー店内というところで私は一旦足を止め、手鏡を覗き込む。

……少しファンデは落ちちゃってるけど、汗は拭き取れてるし、まぁこれくらいなら大丈夫だろう。

本当はメイクを直せたらいいんだけど、この辺りにお手洗いはないし、こんなところで直すわけにもいかないから、これでいいことにしておく。

彼氏との付き合いが3年と長いとは言え、私はデートの時はそこそこの身だしなみは整えるようにしていた。

彼にはすっぴんを何度も見せたことはあるけど、やっぱり外で彼の隣にいる時にはそれなりに見えるくらいにはしておきたいという女心からだった。


手鏡をバッグの中に仕舞い、一呼吸してから彼氏が待っているはずの店内に入ろうとその扉の取っ手を握る。

よし、と開け放とうとした時、中から彼氏の声とこの店の店長(男)のボソボソとした声が聞こえてきた。

最初はいつものように仲良くお喋りをしているのかと思った。

でも……数秒間、二人の会話を聞いて、え?と私は動きを止めてしまった。

……その会話の内容が前述の通りだったからだ。

 
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