私は男を見る目がないらしい。
 

……えぇっと……

つまり、今の会話をまとめると……。

彼氏と店長(しつこいようだけど、男)がお互いに「好きだ」「欲しい」と言い合う仲で……

つまり、そういう関係で……

つまり、付き合……

嫌な想像が頭に浮かんだ瞬間、扉の向こうから大きくガタタッという音と、店内に響くくらいの言葉では言い表せないような“ある声”が耳に飛び込んできた。

それは、彼氏から発せられているらしい、聞いたこともないような“声”。

幾度となく聞こえてくる“その声”から数歩後ずさった後、私は踵を返して走り出した。




やだやだやだやだやだ……っ!!!

ビルから飛び出して、暫く走った。

“あの声”から逃げたくて、とにかく必死に走った。

……とは言っても、100メートルくらい走ったところで、運動不足の私はエネルギー切れで足を止めてしまったけど。

私は歩道のど真ん中で膝に手を置き、中腰でぜぇぜぇと息を調える。

その姿は傍から見るとすごく滑稽だろうと一瞬思ったけど、もう人目を気にする余裕なんてなかった。

……っていうか、っていうか……っ。


「……ま、まさか……っ」


……付き合っている彼氏がゲイだった、なんて。

いや、確かにあの二人は最初から仲はいいなとは思ってたけど……。

ボディタッチをしたり、私を差し置いて顔を寄せ合ってひそひそ話をするほどに……って、え?え?


「つまり、初めからそういうことだったの……っ?3年も……?嘘……、嘘でしょ……?」


さーっと血の気が引いていく。

すごく暑いのに、鳥肌が立ってしまうほどの寒気が私を襲う。


「~~っ、誰かっ……嘘だと言ってよ~っ!」


私はギラギラの太陽が射すたくさんの人が行き交う歩道のど真ん中で、頭を抱えて、ただただ叫んでしまっていた……。

 
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