私は男を見る目がないらしい。
 

中に入ると、生活感のある光景があった。

キッチンのシンクには無造作に置かれたマグカップやお皿、テーブルには雑誌数冊、ソファの背には脱ぎっぱなしのジャケット。

そして、部屋の隅には、数ヶ月前まで私の部屋にあった、ボストンバッグ。

……それらは明らかに、朔太郎がここに住んでいることを物語っている。


「適当に座って。コーヒーでいいよな?」

「あ、うん」


反射的に答えたけど、朔太郎は私の返事も聞かずにすでにキッチンに住人になっていた。

私は無意識にソファの背に掛けられたジャケットを綺麗に畳んだ後、ソファに腰を下ろした。


数分後、朔太郎がマグカップを二つ手に持って戻ってきて、ローテーブルの上にそれを置く。

そして、私の座る横に腰を下ろす。


「散らかってるだろ?まさか美桜連れてくることになるとは思わなかったから、片付けとかしてなくてさ。悪いな」

「や、それは全然いいけど……っていうか、朔太郎、昔と全然変わってないんだね……」


朔太郎の家に遊びに行っていた時のことを鮮明に思い出す。

すごく心地よくて大好きだった朔太郎の部屋。

あの部屋でいろんなことをした。

朔太郎とすごく楽しくおしゃべりもしたし、ケンカもしたし、キスもしたし、はじめてのことだってあの部屋でだった。

全く別の場所なのに、ここも同じ空気を感じるんだ。

はじめて来たとは思えないくらい、居心地がいい。

 
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