私は男を見る目がないらしい。
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朔太郎に見送られて仕事に行くのは不思議な感じがすると共に、すごくくすぐったく感じた。
そんな朝がこれから続くのかと思うと、何だかほわっと心が温かくなって嬉しくなる。
朔太郎の作ってくれた甘いスクランブルエッグと見送りのおかげか、私はいつもよりも軽い足取りで会社に到着した。
私が働くのはそこそこ有名な化成品メーカー、柚王化成だ。
洗剤やシャンプー、化粧品などを始めとした化成品を扱っている。
小さい頃から理系バリバリの私だけど大学院に行くまではないなと大学3年から就職活動を始めた。
その時に駄目元で受けた会社のひとつが今働いているこの会社で、大学院卒ではないにも関わらず、研究開発職で運良く入社することができたんだ。
私はこういう運だけは昔から強いらしい。
ただ、やっぱり研究開発職では大学卒は珍しく、同じ部署にいる同期の半数以上は院卒のため私よりも年上だ。
同期はそれぞれのチームに配属され、私は大学の専攻で分析化学をしていたのもあって、今は実際の商品である化成品や、サンプル品、研究開発途中の試料がどれだけ汚れを落とすかなどの評価分析の仕事を任されている。
今日もいつものように分析室のテーブルで標準試料となる溶液を調整する。単純な作業とは言え、少しのずれも許されない重要な作業だ。
スポイトでぽたりぽたりと一滴ずつ純水を落として調整していく。
その時、部屋のドアが開いた。