恋物語。
「…お疲れ様でした」
私はそう言って会社をあとにする。
私の勤務時間は、10時~19時。倉庫の方が忙しい時には残業だってある。
だけど基本的には、この時間に終わって帰るっていう感じ。
まぁ男性社員は倉庫の出荷が終わるまで残っている人がほとんどだから残業の毎日みたいなんだけど…。
そして今日は金曜日。井上さんとご飯の約束した、その日。
事前に待ち合わせ場所と時間の連絡は来ていたので、その場所へと向かう。
約束していた時間は、19:30。場所は都心部の駅前。
実は…会社からこの時間に駅前集合って…結構ギリギリだったりする。
だから私は少しでも早く着けるように早歩きで会社の最寄り駅へと急ぐ。
「はぁ…」
そして、やっとの思いで駅前へ到着。時刻は…まもなく30分になろうとしていた。
やっぱり…ギリギリだったな…。
腕時計を目を落としてそう思い、井上さんの姿を探すことにした。
んー…多分もういると思うんだけど……ぁ。
金曜日の夜ということで駅前には人が溢れかえっているけれど…その中でも存在感のある井上さんの姿を見つける。
「…井上さん…っ!!」
「あ、知沙ちゃん。お疲れさま」
駆け寄り名前を呼ぶと私に振り返り笑顔を見せる井上さん。
「すみません…遅くなってしまって…」
「いいって、大丈夫。そんなに待ってないから」
ね?そう言って、また私に笑いかける。
「はい…ぁ…」
井上さんの顔から視線を落としていった時に“あるもの”を見つけてしまった。
「何?」
「あ、いや…今日はネクタイしてるんだなぁ…って思って…」
そう…それはネクタイ。
初対面だったあの時も今と同じようにスーツではあったんだけど…ネクタイはしていなかったから。
だから今日は、その時よりも…何だか、かっこよく見えるような気がする…。
「あぁ…これね。今日は大事な取引先に行く用があったからさ。」
「あ…そうなんですね。」