恋物語。
―それから。お酒もお料理も進んでいった。
私は最初に頼んでもらった烏龍茶を少しずつ飲んでいく。これがいつものスタイル。
そんな中、一番変化してしまったのは…
「この子ねー?ほん…っとに男っ気がなくって今まで誰とも付き合ったことなんてないんですよ~!!どう思います!?井上さんっ」
朱里、ただ一人。この子は今…完全に酔っ払っている、らしい。
「え、あぁー…今まで、いい出会いがなかっただけじゃないかな?」
朱里に話を振られた井上さんは困惑しながらもそう答えている。
「ちょっと朱里…もう飲みすぎじゃないの?井上さんに絡むの止めなよ…っ」
自分のことを言われたことに恥ずかしさを覚えたのと、
井上さんの表情を察した私は朱里を心配してそう言う。
「…ちょっと知沙、何言ってるの?今日は、あんたのためにセッティングしたんだからね!?」
「え…!?どういうこと…っ」
ついさっきまで虚ろな目をしていたはずなのに朱里はすぐ真剣な眼差しを私に向ける。
「今日、誕生日でしょ!?何歳?」
「え、あー…26、です…」
「でしょ!?もうそろそろ誰かと出会わないと出遅れるよ?分かってるの!?」
「…はい、分かってます…」
そりゃあもう重々…。
「だから!とりあえず男の人に慣れてもらおうと思って二人に来てもらったってわけ!」
「え…?」
そう、だったんだ…。朱里が…私のためにそんなことを…。
「…ちょっといい?」
「あ、はい…」
朱里との話が一段落すると井上さんが話しかけてきた。
「知沙ちゃん…今日誕生日なの?」
「あ、はい…そうですね。」
「そうなんだ。おめでとう」
井上さんはそう言うとフワッと柔らかな表情を浮かべる。
「あ…ありがとう、ございます…」
こんな風に男の人にお祝い言われたの…生まれて初めて、かもしれない…。
「…あ、ちょっとゴメン」
井上さんは一言そう言うと席を立って出て行った。