きみの、手
「あいつはお前とは逆なこと、言ってたけどな」
「へ?」
「『あんな笑顔、見たことなかった』ってさ」
『ところで最近一緒にいる子、彼女?』
『は?いや、違うけど』
『へー…でも城田くんのあんな笑顔、私は見たことなかったな』
『……』
彼女が見たことなかった表情
それは、私だけの表情
「それって…」
「お前にしか見せない顔も、あるってこと」
私があなたに、近付けているということ?
「…引きずってた気持ちも蹴りがついたことだし、もう逃げるのはやめる。お前の気持ちにも、向き合うよ」
「え…?」
「とりあえず、この後飯どう?」
「……」
無愛想に言う言葉と、そっと差し出されるその大きな手。
触れていいのか戸惑いながらも、応えるようにゆっくりと手を伸ばすと、彼の手はしっかりと私の手を包むように握った。
緊張しているのか、ひんやりとした体温に微かに滲む汗。肌と肌が、触れ合う証。
「何、食べたいですか?」
「…出来たてのカレー」
「え!?じゃ、じゃあ…うち来ます?」
「食器は新品がいい」
「じゃあ帰りに買って行きましょう」
今はまだ、触れる肌はこの手ひとつだけ。
だけど小さな毎日を積み重ねて、少しずつ、少しずつ触れていこう。その肌に、その心に。
ここから始まる二人の日々
つないだ手を、離さずに。
end.


