ただ、そばにいて
ルームキーを渡し、部屋を出ようとすると、ベッドに腰を下ろした翔吾の声が私を引き止める。



「明日のバーベキューは来いよな。今からドタキャンしたらきっと幹事がうるせぇから」

「うん、わかってる」

「それに、朝海のビキニ姿も一度拝んでおきたいし」

「……サイテー」

「その最低の男と寝てたお前も、似たようなもんだろ」



──冗談のやり取りだとわかってはいても、最後の一言は胸に突き刺さった。

今の私には、冗談では片付けられない気がして。

翔吾の軽い笑い声を耳に入れながら部屋を出て、パタンと扉を閉めると深いため息を吐き出した。



「アサ姉」



階段の方から呼ばれたのではっとして顔を向けると、ナツが怪訝そうに私を見上げている。

ダメだ、普通にしていないと。



「うん? どうかした?」

「今の人、彼氏?」



何事もなかったように笑顔を取り繕ってみせるものの、私の真意を探るような目で鋭い視線を向けるナツにたじろいでしまう。



「違うよ。あの人はただの……」



“友達”と言おうとしたのに、言葉が喉に詰まって出てこない。

私達は、決してそんな綺麗な関係じゃないから。

こういう時に嘘をつけない自分も嫌になる。



「……ただの、何?」



口をつぐむ私に近付き追い詰めるナツに、胸がざわめき始めた、その時。

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