大人のEach Love




「どうかなさっ・・・たってっ!!佐田さん?!」


漸く花から俺に目を移した彼女は、声を上擦らせながら俺の名を呼ぶ。



「おはよう。今日は随分と早い時間に花を生けるんだね?」


「へっ?!はい。・・・って!!佐田さんこそ早くないですか?まだ8時前ですよ?」


彼女が驚くのも無理もない。
俺は、徹底しているわけではないけれど9時より早く出社するだなんて滅多にない事だったから。

彼女のその問いかけに、俺は曖昧に笑いながら
『雨も降ってたし・・・キミの言う愛らしさを考えながら、知らぬ間に早足になってたみたい』
と、そう言うと彼女は一瞬困った表情をして見せた。


あぁ、これはNOって事なんだろうな・・・


そう思いながらも直ぐには聞きたくなくて、俺は話を反らす。


「それ、紫陽花?こんな時期なのに咲いてるんだね?」


「えっ?!・・・あ。これですか?玉紫陽花って言うんですよ。秋に咲くんです。花の造りが細かくって可愛いですよね?」


「・・・キミの方が可愛いよ?」


自分で話を反らそうとしたくせに、結局戻すのかよっ!
と、俺自身突っ込みたくなる。

だけど、彼女を愛しいと思う気持ちは素直に出てしまうんだから、それは仕方が無い。


彼女は頬を赤く染め上げ手にしていた花瓶をテーブルに置くと、俺に向かって頭を深く下げた。


「佐田さんっ!!ごめんなさいっ!!」



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