新選組異聞 幕末桜伝
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「祇園でまた浪士が五人、斬り殺されてたらしいぜ。全員が急所を狙われて、即死だったらしいけど。」

「そりゃ、相手は相当な手練れだな。」
「噂だと、椿総長が殺ったらしい。」

「…なるほど、あの人ならやりかねんな。なんせ、目が合うだけで殺されるらしいから。」

次の日、事件はすでに内部まで伝わっており、隊士の間では、その話題で持ちきりであった。


あまり争った跡がなかった事から、一瞬の内に殺されたのだろうと推測でき、更には、一撃で急所に命中していた為、昨夜、一人で見回りに出ていたさくらの仕業ではないかと半ば断定的に噂が噂を呼び、広まっていた。

それはもちろん、局長である近藤勇(コンドウ イサミ)、そして副長の土方歳三(ヒジカタ トシゾウ)の耳にも入っていた。


「なぜ、殺す必要があった。いつも言ってるが、お前程の実力がありゃァ、殺さず生け捕りにする事も可能だろうが。何の情報も聞き出せやしねェ。

いいか。俺たちは人斬り集団じゃねェんだ。お前が人を殺す度に、恨みを買う。敵討ちだなんだって、俺らを殺ろうっていう、名目ができんだ。それ全部、結局はお前に返って来るんだぞ。解ってんのか。」

あぐらをかき、頬杖をつきながら説教をする男をさくらは冷たい目で見つめ、頷く事も否定する事もせず、ただ姿勢よく座っていた。土方はそんなさくらの様子を見て、苛立ちを募らせたのか、聞いてんのかと声を荒げる。

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