新選組異聞 幕末桜伝
さくらが屯所を抜け出し、独断で浪士を切り捨てている事に真っ先に気付いたのは、芹沢だった。

死神の噂を聞き、興味を持ったらしく、内々に探らせていたのだ。さすがの芹沢も、死神がこんなに近くにはいるとは思っていなかったようだが、いくつかの偶然が重なり、さくらの行いが彼らに知られる事となる。

浪人を切り捨て、屯所に帰ってくると、芹沢が一人裏口に立っていた。さくらを待っていたのだろう。だが、何か言葉を発するでもなく、そのまま去っていった。真意は解らない。


さくらは、次の日近藤らに問い質される事を覚悟したが、いつも通り何の任務もない穏やかな日が待っていた。芹沢も、何か言ってくる様子もない。気味が悪いと思いながらも、さくらは、その行為をやめる事はなかった。

恐らく芹沢は、死神の正体さえ解れば、それ以外はどうでもよかったのだ。


さくらを突き出した所で、自分の利になるはずもなく、そのまま自由に動かした方がおもしろいとでも考えたのだろう。


芹沢は、そういう男だ。

気に入ればかわいがるし、気に入らなければ容赦なく切り捨てる。


切り捨てられた方はたまったものではないが、さくらは芹沢のそのはっきりとした性格が嫌いではなかった。むしろ、何かと口うるさい土方よりは好感が持てる。去っていく芹沢の背中を見ながら、さくらはそんな事を考えた。

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