僕のonly princess

ほんのり温かい



本日最後の授業が終わって、特に部活に入っていない俺はいつものように帰り支度を始めていた。


そこへ俺といつも一緒にいる仲のいい二人がやってきた。


「薫、今日帰りになんか食ってこうぜ」


少しお茶らけた印象の強い小川忠(おがわただし)が怠そうに俺を誘って。
その隣に裏表のなさそうな笑顔で田城吾郎(たしろごろう)が頷いている。


「あれ?吾郎は部活じゃないの?」


水泳部に入っている吾郎にそう訊ねると、吾郎は笑顔のまま首を左右に振る。


「今日はプールが点検で使えないからオフなんだ」


「ふーん、じゃあキヨ先生とデートでもすればいいのに」


「ちょっ、薫っ!」


柔らかな笑顔でオフだと答えた吾郎をからかうつもりでニヤッと笑って言った俺の口を、吾郎が両手で慌てて塞いだ。


吾郎はからかうと面白い。
真面目で真っ直ぐで、その分ちょっと不器用だけど俺には吾郎のそういうところがすごく羨ましい。


明るいし、誰に対しても物怖じしない吾郎はかなり人気者だ。
そんな吾郎には今年新卒でこの学校の講師になった美人な彼女がいる。


二人は先生と生徒という関係だから、まだ付き合っていないらしいし、先生からは直接的な気持ちも聞いていないらしいけど。
俺から見れば十分立派な恋人同士だ。


それでも律儀な二人はちゃんと卒業まではその曖昧な関係を通すつもりのようで。
二人でどこかに出かけることなんて、一度もない。


そんなに拘らなくてもいいのにと第三者の俺は思うけど、二人がそれでいいなら口出しする必要もないと思っている。


だけど、吾郎の反応が面白いから、ついこうやってからかってしまうんだ。


< 12 / 238 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop