深海魚Lover
「うるせえよ
 
 俺には好都合な状況……」

「やめろ

 そこまでだ!」


横田の声に動きを止める男達。

黒須の頬にやっと当たった出雲の拳、痛みが走りピリピリと痺れ震える手……


あの日、震える手で抱きしめた

守れなかった命

自分よりも大切なものだった

なのに、自分のせいで傷つけた


どうせ死ぬなら、温かい場所で安らかに逝かせてやりたかった----


「出雲……」

『イズモ』

「馴れ馴れしく、呼ぶな

 アンタの話など聞きたくない

 お前はじゅんを殺した

 俺のじゅんを」


俺の……


『イズモ

 バカね』


瞬き一つしない瞳から零れ落ちた一粒の涙、つーっと頬を伝う。

その涙に見惚れる男達、黒須もまた息を呑む。

牙を隠した猛獣は悲しき姿でそこに立つ。

無抵抗な子供のように……


「愛されていたんだな、お前の妹は

 アレとはえらい違いだ

 ……あれでも愛してたんだがな」

横田が言う『アレ』とは、誰のこと----薄々、見当はつく。
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