【短編】放課後の生徒会室







「冴木」


「はい」


「好きだよ」


「・・・はい」



手を引いて、僕の頼りない胸で彼女を受け止める。
今まで意識してなかったけど、身長、あまり変わらないんだな。
だからか、抱き締めた時、耳が触れ合ってしまいそうなほど、顔が近い。

なんだろう。
息が、苦しい。
それと、熱くてかなわない。



「僕には、よく分からないんだが、こういうことは、その、彼女としか、したいと思わないものなんじゃないのか?」


「・・・そうとは限らないと思いますけど、」


「そ、そうなのか・・・?」


「でも、少なくとも会長は、そうやって思ってくれてるってことですもんね」



背中に回された彼女の手に、ぎゅっと力が加わり、僕らの距離はゼロになった。
ついさっきまで、彼女が僕のことを好きな理由とか、そんなことばかり考えていた気がする。
でも、すべて、無駄なんだと分かった。
言葉にせずとも、分かることもある。
僕は彼女が好きで、彼女も同じ気持ちでいてくれているのだから、今はそれだけで充分だ。


背中で、彼女の腕がほどける。
僕も、抱き締めていた手を離して、再び僕らは向き合った。
彼女の潤んだ瞳に、赤面する僕の間抜け面が映る。
彼女にも、そう見えているのかと思うと、また例えようのない恥ずかしさに襲われる。

僕は右手でかけていた眼鏡を外し、その手で、彼女の長い髪を耳にかけた。
微かに指先に触れた頬は柔らかく、熱を帯びていたけれど、視界はぼやけているため、その表情は確認できない。




ただ、彼女が小さく、息を吸った音がして、僕はゆっくり目を閉じる。















ガラガラッ




「ちょっとーまだ終わんないんすかー・・・って、ええええ!?」



オイ。
オイオイオイ・・・。

唇が触れるまであと数センチというところで、僕は目を開ける。
また、予想外の邪魔者が現れやがった。
くそ、阿久津のやつ、何故福澤を止めておかないのだ・・・。

僕は冴木の頬に手を添えたままの状態で硬直する。
触れた頬の熱が、徐々に上がっていくのが分かった。

なんてタイミングが悪いやつだ。
とりあえず、腹に蹴りの一発でも入れなければ、この怒りは鎮まらないだろう。

眼鏡をかけ直し、サッと邪魔者の方に顔を向ける。



「ふーくーざーわー」


「・・・ご、ごめん、会長、許して」


「許さん!あと三秒後に貴様の腹を蹴り飛ばす、三、二、」


「ま、まって!勝手にカウントダウン始めないで!」


「一」



ドゴォッ




この日、結局話し合いどころではなくなったというのは、まぁ、わざわざ説明するまでもないことだ。
そして、今日という日が僕と冴木にとって、特別な日になったということも。










end
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