甘く熱いキスで
長い廊下を進み、自ら燃やした自室の前を通り過ぎ、そして階段を降りる。リビングの使用人たちが項垂れる横を通ってキッチンへ……誰もが使う場所のように見えて、その実、大した呪文の使えない使用人のみが行動する場所。水回りに施す呪文は、掛かりにくいというデメリットもあるが、それさえクリアすれば逆に感知されにくいというメリットがある。

「フン……風呂場も調べてみるか?」

ヴォルフは鼻で笑って後ろをついてきた部下の1人に目配せをした。ライナーから炎の半分を受け取って、彼が軽く頷いてキッチンを出て行く。

「こんな単純な仕掛けを使うとは、あの性格からは意外とも言えるな。まぁ……そういう狙いなんだろうが」

ヴォルフはライナーから炎を受け取って水道の蛇口に近づけた。すると、炎に照らされて揺らめいた空間が焦げるように黒い穴が広がって、中に紙の束が入っているのが見えた。

それを取り出して、ヴォルフが素早く目を通していく。

「使用人の中でカルラという女は私の母、ユッテ・アイブリンガーを監視するために4年前からアイブリンガー家に潜入しています。ほとんどこちらの家にも帰ってきません」
「そちらはカイが拘束しているだろう。お前は他に何を知っている?」

鋭く射抜くような視線に、ライナーの額には汗が滲んでくる。だが、その視線を逸らすことなくライナーは再び口を開いた。

「精鋭部隊のリーダー……アヒム・ブラントは、精鋭部隊で私を引き受ける代わりにベンノ・カペルから大金を受け取っているはずです。その出所はおそらく他の者の俸給を少しずつ減らして――正確には、昇給や特別報奨金の額を誤魔化した分の差額です。それは、そちらの帳簿を確認すればすぐにわかることでしょう。彼の主な仕事は、城の内部……軍部全体の実態や私の行動の監視と報告です」

アヒムがどういう理由でベンノにゴマすりをしていたのかは知らないが、噂ではかなり大きな負債を抱えているとも聞く。真意はともかく、動機としては単純に金が欲しいということが大きいだろうし、自分の地位を確立するのにベンノを味方につけるのは理に適っている。
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