甘く熱いキスで
「――てことで、俺が把握してる報告は終わり。その他何かある?」

ヴォルフの向こう側でユリアと同じように頬杖をついてにっこりと笑ったのは、エルマーだ。

ユリアはすかさず立ち上がろうとして、身体に力を入れる。だが、とても強い力に引かれて、トスッとお尻を椅子に戻した。見ると、ヴォルフがドレスの腰の辺りについているリボンの結び目を握っている。

「じゃあ、今日は解散で。はいはい、お疲れ様―」

エルマーの気の抜けた解散宣言に、議員たちが席を立つ音が議事堂に広がっていく。ライナーも流れるような動作で立ち上がる。

「ちょ、ちょっと待っ――」
「ユリア」

議会でライナーとの婚約宣言をしようと意気込んでいたユリアは慌てて机に手をついて立ち上がろうとした。だが、ユリアの声を遮ったのはヴォルフだ。ドレスのリボンも離してくれそうにない。

ユリアがヴォルフの方へと顔を向けると、普段と特に変わらない表情をしている――つまり、ユリアに選択肢はないということだ。

ムッとして口を尖らせてみるが、ヴォルフはクッと笑っただけで、椅子から立ち上がった。

「来なさい。フローラも待っている」
「……はい」

ため息交じりに返事をすると、ヴォルフの後ろでにこにこしているエルマーと目が合って、ますます口が尖っていくのがわかった。エルマーが告げ口をしたに違いない。

ユリアはエルマーから顔を逸らして、せめてもの抵抗を見せた。それから議事堂を出ていくヴォルフの背を追って、謁見の間へと向かうのだった。
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