甘く熱いキスで
揺らめきながら鎮まっていく炎の向こうでは、アヒムが右手を抱え込むようにして床に蹲っていた。全身火傷を負ったように見受けられ、軍服も肌も言葉にはできないくらいひどい有様だ。

持っていた剣も溶けて床に流れ、ユリアの使った炎の威力を体現している。ライナーとユリアが無事なのが不思議なくらいだ。

ライナーは呪文を唱えるのをやめ、代わりにユリアをきつく抱きしめて彼女がアヒムの姿を見られないよう後頭部を抱えて自分の胸に押し付けた。

「ライナー?」
「見ては、いけません……人、が来ます、から……っ、それまで……」

ユリアが身じろぎするのを、ライナーは諌めて息を吐く。

ユリアの力が暴走したことに気づく人間は多いはずだ。アルフォンスは城に残っていたはずだし、カイやイェニーもそろそろ帰ってくる。警備兵も、さすがにこれだけ強い気が巻き散れば駆けつけてくるだろう。

ライナーはユリアの頭に頬を寄せ、彼女の温もりを感じられる幸せを噛み締める。

「ユリ、ア……」

軍人のくせに、守られたなんて情けないと思うのに……それ以上にユリアと我が子の隣に生きていられることが嬉しくて、安心した。

気が抜けたせいか意識が薄れていく。

遠くで扉が開く音や、たくさんの足音が響くのを聞きながらも、ライナーはユリアを強く抱きしめて離さなかった。
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