甘く熱いキスで

エピローグ

「ライナー!」

ライナーが移動呪文を解除するのと同時に、彼の炎を感じたらしいユリアがライナーの目の前に小走りでやってくる。

可愛らしいエプロンを身に着けて、なぜか頬にケチャップをつけているユリアは少し息を切らせながらも満面の笑みでライナーを迎えてくれた。

ライナーはふっくらしたユリアの頬を親指でなぞり、ケチャップを拭って眉を下げた。

「ユリア。走ってはいけないと何度も言っています。それに、料理の途中でキッチンを離れては危ないでしょう。火は止めましたか?」

そう言うと、ユリアは頬を膨らませてフンとそっぽを向いた。すると、パチッと炎が弾けてライナーに降りかかる。熱くはないが、これはユリアの機嫌が悪くなるとお腹の子が共鳴して気が漏れるせいだ。

「もう。最近ライナーまでそうやってお小言を言う!」
「貴女が無茶をするからです。お願いですからもっと身体を労わってください。昨日だって遅くまで音楽史の本を読んでいたでしょう」

勉強熱心なのはいいことだが、持ち帰った仕事をするライナーと同じように夜遅くまで勉強をして、更に早朝に城へと出勤するライナーと同じように起きているのは少々やりすぎだ。

昼間は音楽学校へ通っていて、帰ってからも家事やピアノの練習を欠かさずしているようだし、ライナーは心配で仕方がない。特に音楽学校では、やはり“王女”という身分があってやりにくいだろうし精神的なストレスにもなっているはずだ。
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