甘く熱いキスで
「蝋燭の灯りでもお探しですか?」

上品な喋り方のその声は、少し低めで艶がある。

思わずドキッとして、ユリアは自分の心臓に手を当てた。

「い、いえ……」
「そうですか。火をつける、と聴こえたものですから、灯りをお探しなのかと」

フッと笑って近づいてきた男は、ユリアの前を通り過ぎて先ほどまでユリアが座っていたベンチに腰掛けた。
「貴女も酔い覚ましですか?」
「そういうわけじゃ、ないけれど……」
「そうですか。私は少し人に酔ってしまったようです。恥ずかしながら、こういう夜会には慣れていないもので」

仮面をしていて月明かりも頼りないため、彼の表情はわからないけれど、その口調から柔らかく微笑んでいるような気がして、ユリアは少し首を傾げた。

彼が“ユリア”に気付いていないように感じたからだ。ユリアのことを探して出てきたわけではないのだろうか。

ユリアが仮面舞踏会で運命の人を探し始めてから、貴族の間ではユリアは“キス魔の王女”として噂されている。もちろん裏での話ではあるが、仮面舞踏会に幾度か参加すればそんなことはすぐにユリアの耳にも入った。

それ自体は構わないのだが、“運命のキス”ができればユリアの夫になれると張り切る貴族が出てきたのは少し面倒で、それ以来無駄になるキスの回数が増えたのはあまり良い傾向とは言えないだろう。

とはいえ、数を打てば……という淡い期待もあることは事実だ。今、目の前に現れたこの男とのキスも試す価値はある。

何よりそろそろイェニーがユリアを見つけてしまいそうだ。
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