甘く熱いキスで
ユリアは男の隣に座り、彼の膝に手を置いた。

「あの!私と、キスして欲しいの」
「え……?」

ユリアの言葉に、男は驚いて仮面の奥の瞳を見開いた。しかし、すぐに口元が緩く弧を描き、ユリアの頬に彼の手が添えられる。

「なるほど……貴女が、キス魔の王女様ですか?」
「そうよ」

真っ直ぐに男の瞳を見据えると、彼は少し目を細めてユリアの頬を親指でなぞった。そこから生まれるのは、くすぐったいような、熱いような、ユリアにとって初めての“何か”――期待、という言葉が一番しっくりくるだろうか。

この人かもしれない。その、ユリアの心に生まれた期待は、ユリアの鼓動の波をゆっくりと大きくし、音を立てる。

「私にも、シンデレラの靴を試すチャンスを下さると?」
「シンデレラじゃないわ。王子様よ。時間がないの。早く――」

ユリアが少し身を乗り出した瞬間、距離を詰めたのは男の方だった。ユリアの唇にふわりと重なった彼のそれは、思いの外柔らかい。

しかし、ユリアが想像していたような劇的な感情は全く沸かず、ユリアは男の唇が離れたとき、ため息を漏らした。

「ごめ――」
「12時の鐘までは、もう少し時間があるようですよ?」
「っ、ん――!」

何度目かもわからない“ごめんなさい”という言葉を遮った男は、再びユリアの唇を塞ぎ、そして完全に諦めていたユリアの唇を割って温かいものが侵入してくる。

「ん、ふっ……ッ、ぁ……」

体験したことのない熱、感触――それが、彼の舌だと理解はしても、どう対処していいのかわからず、ユリアは男の胸元にしがみつく。

男の左手はユリアの後頭部をしっかりと支え、右手はうなじから首筋を撫でてくる。強引な手のひらとは違って、口内を丁寧になぞってくる舌。ゾクゾクとした刺激が背を伝ってユリアの頭の芯を揺らした。

身体が火照り、力が抜けていく。
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