甘く熱いキスで
「残酷、って……?」
「場合によっては……人を傷つける行為になります」
「そう、ね……」

すべての人間が愛し合ってする行為ではない。それくらいはユリアも知っている。快楽のために、お金のために、政治のために……個人的な理由から国の政略、犯罪になる場合だってある。

「でも、ライナーは……傷つけるために誰かに触れたりしないでしょう?」

今も、ユリアを強く抱きしめているようでその拘束は緩く、ユリアに選択肢を残している。ライナーはユリアの発言を戒めるために、指先だけで男と女の距離を示した。

「私は軍人ですよ。他人を傷つけることしかできません。たとえそれが、自分の正義だとしても……です」
「ねぇ、ライナー。そうやって、自分のことを悪く言うのはやめて」

ユリアはお腹に添えられたライナーの手に自分の手を重ねた。

「貴方は、フラメ王国の人間として誇りを持っていないの?軍人として、1人の人間として、そういう気持ちがあったから、今の地位があるのだと思わないの?もっと、堂々としていればいいのよ」

ユリアが身体の向きを戻して頬を胸に擦り寄せるとライナーの規則正しい鼓動が聴こえた。

「ライナーには、何のしがらみもなく……私と向き合って欲しいの。王女だからとか、養子だからとか、そんなことに囚われないで、1人の人間として私と結婚するかしないかを決めて欲しいの」
「……努力は、します」
「うん……」

ユリアが背中に回した手でギュッとライナーを抱きしめると、ライナーも同じようにしてくれた。冷たいようで、優しく温かい不思議な男だ。しばらくその曖昧な温度に身を任せ、ユリアは小さく口を開いた。

「次のお休みは、デートがしたいわ」
「ユリア様の仰せのままに」

ライナーにそっと頭を撫でられて、ユリアはコクリと頷いた。
< 41 / 175 >

この作品をシェア

pagetop