甘く熱いキスで
淡いメイクにくるくる毛先を遊ばせた髪はハーフアップにし、白いワンピースに身を包んで嬉しそうな自分の姿が鏡に映る。完璧な城下町の娘に変身できただろう。

ユリアはにっこりと鏡に向かって笑って部屋を出た――…ところにいたイェニーに捕まった。

「ユリア様、どちらへ?」

わかっているくせに聞く辺り、イェニーも意地が悪いと思う。

「フラメ王国立劇場よ」
「ご――」
「護衛はいらないわ。私がそこら辺の人間に負けるような王女じゃないって知っているでしょ?それにライナーは軍人だもの、私1人くらい守れるわよ」

イェニーのお小言に先手を打ってから階段を下り始めたユリアだが、イェニーはユリアの後をピッタリとくっついてくる。

「ユリア様、いけません。出かけることは構いませんから、せめて護衛をお付け下さい」
「デートは2人で行くものよ。護衛なんていたら、気が休まらないわ」
「休まってしまっては困ると申し上げているのです!そもそもライナー・カぺルはファルケンの筆頭であるカぺル家に属する男です。議会での発言力の強化、貴女を利用して王家に入ろうとする目論見があるに違いありません」

アルフォンスといい、イェニーといい、ユリアがライナーを城へ連れてきてから突っかかってくることが多くなった。

「貴女を傷つけるかもしれない男、それも軍人と貴女を2人きりにさせるわけには参りません。今までは城の敷地内でしたから大目に見ていましたが、今回は――」
「イェニー。私は今、人生で一番大事な選択をしようとしているところなのよ。邪魔をするなんて無粋だわ」

うんざりしたユリアは天井を仰いで大げさにため息をついてみせた。
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