甘く熱いキスで
「…………で………………すか?」
「えぇ…………です…………せん。ゆ…………て……さい」

しかし、2人の話し声は小さくてはっきりとは聞き取れない。その後少し水の気の気配がして、クラドールにトラッタメント――治療――を施されているらしいことがわかった。

クラドールは隣国のマーレ王国から働きに来ている者なので、使う呪文の種類は水属性だ。炎属性は気の刺激が強く、フラメ王国ではクラドールが育たない。逆に水属性を操るマーレ王国は国民の8割ほどがクラドールの資格を持つほどの医療大国で、他国に働き口を求めて移民する者も少なくない。

「靴擦れじゃなかったの?」

しばらくして出てきた2人に不満げな視線を向けると、クラドールはクスクスと笑ってライナーの肩を叩く。

「あまりユリア様を心配させない方がよろしいですよ。きちんと休んでくださいね」
「はぁ……」
「私の質問に答えて!」

ユリアの質問には答えてくれない2人に、ユリアは口を尖らせて抗議した。

「連日のハードな訓練で消耗していたセントロの機能を回復しただけですよ。ついでに張っていた筋肉もほぐしました。まぁ、健康診断のようなものですね」

セントロとは、呪文を使える者が持っている心臓に似た役割を果たす器官のことだ。属性によってその位置が異なり、炎属性は鳩尾にセントロが存在する。そこを源として気が生成され、呪文を使う際は、そこから必要な分だけを呪文に変換することで力を発揮するのだ。

ユリアはクラドールの説明に半分納得し、半分疑いの目をライナーに向けた。

「それに、今日の成績不振には精神的なものもあるようです」

ライナーはじっとユリアを見つめ返していたが、クラドールの言葉にフッと息を吐いて小さく「すみません」と言った。
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