甘く熱いキスで
行き先は決めてある。

城下町で一番人気の服飾店だ。国内の有名なデザイナーの商品はもちろん、外国からの輸入品も扱っており、街に出るためにユリアが持っている服もほとんどがその店で購入したものだ。

ドレスの仕立ても頼んでいるため、王家御用達としても有名である。

普段は店主に城へ足を運んでもらうことが多いが、今回はライナーとのデートなので店に行くと連絡してある。城下町でも高級店が並ぶ通りにあり、値段が張る店ということもあって客層が主に上流階級の者たちのため、奥の個室を使わせてもらう予定なのだ。

「そこの通りに入ったら、少し急いで」

大通りならば大丈夫だろうけれど、この辺りでは城によくやってくる貴族たちの方が多い。誰かにつかまって無駄な時間は過ごしたくない。ユリアがそう言うと、ライナーは「わかりました」と頷いてくれた。

2人で早めに歩く――少々おかしなデートではあるが、それすらもライナーと一緒ならば楽しくて仕方ない。ユリアはふふっと少し笑って店へと向かった。

「ようこそおいでくださいました」

店に入ると、ユリアたちの到着を待っていた店主が恭しくお辞儀をして迎えてくれた。幸い店内には客はおらず、ユリアたちは問題なく奥の個室へ通される。

「頼んでおいたもの、届いている?」
「ええ、職人も待機させておりますので調整も可能です」

店主が微笑み、仕切りカーテンを開く。


「ユリア様、これは……」

驚くライナーの手を引いて椅子に座らせると、ユリアは手近にあった黒い軍靴をライナーの足下へと置いた。
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