甘く熱いキスで
「当たり前だけど、ヴォルフはすぐにそれを見破ってフローラを城に連れてきちゃったの。で、ユッテは自分のピアノ講師――それも田舎から出てきたフローラへの対抗心でいろいろと問題を起こしてくれた」

エルマーは当時を思い出すように目を瞑る。

「その中でも問題になったのが、ライナーのことだったんだよ。マルクスにそそのかされて、ユッテはヴォルフとの結婚を議会に認めさせようとして……」
「マルクスと、ということですか?」

カイが問うと、エルマーはため息をついて頷いた。

「尤も、そこまでユッテがきちんと考えていたかというと、答えはたぶんNOだけど」

シュトルツは炎の血を受け継ぐことを誇りとし、継承していくこと――炎属性同士の婚姻を祝福し、新たな命を最も尊いものとみなす信仰だ。中絶は御法度、そこまで信仰に深くないファルケンですら新たな炎を消そうとすることには反対する。

なんらかの形で既成事実を作り、マルクスの子をヴォルフの子として議会での承認を得ようとしたらしい。もしくは想定外の妊娠を慌てて利用しようとしたか……浅知恵もいいところだ。

もちろん、あっさりとヴォルフにそれを暴露されたユッテは、今度はそのシュトルツ信仰に縛られてマルクスとの婚姻、そしてライナーを産むことになった。
< 92 / 175 >

この作品をシェア

pagetop