僕は君の名前を呼ぶ


──君と出会って8度目の春がやって来た。


3月に大学を無事に卒業した俺たちはお互いの実家に戻り、社会人として春を迎えた。




帰宅部だった高校時代とは違ってずっと忙しくしていたけど、思い返せばあっという間だった。


たくさんのことを学んだ。


たくさんのことを知った。


汚い世の中のこと。それでも捨てておけない愛があること。


まだまだ未熟な俺だけど、少しは成長できたかな。




久しぶりに地元で迎える春。


東京では年中バイト三昧で、桜なんか見る暇がなかったからなあ。


距離的には東京とたいして離れてはいないけど、地元というだけでとても落ち着く。


例年、温暖化の影響で新学期より一足早くフライング気味に咲いていた桜。


だけど今年は、もう4月に入って数日経ったが、まるで俺たちの門出を待ってくれていたかのように開花が遅い。


君と出会った8年前の桜みたいだ。


彩花は覚えていないだろうけど、俺は昨日のことのように覚えているよ。


桜の下。柔らかな風に包まれた彩花に俺は釘付けになったんだ。


いつか彩花に話したときは、びっくりされたっけ。


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