皇帝のお姫様
『「………………」』
何も話さないこの大きな部屋で聞こえるのは唯一お互いの息づかいだけ。
『帰りたいんだけど?』
速水と2人なのは
屋上以来だ。
ギシッ
私の言葉を聞いてしばらくすると速水は自分が座っていたソファーから私の隣に座った。距離は近くって肩が当たる。
「なぁ‥なんでお前俺の事だけ名前で呼ばねーんだよ?」
真面目な顔して何を言うかと思えばまた名前の事か。どんだけ名前にこだわってるんだろう?
『名前
呼びたくないから。』
「何で?」
『何でも。速水だって“お前”って呼んで名前で呼ばないでしょう?それと一緒。』
「ふぅん。名前で呼んで欲しかったんだ?」
速水はそう言うとだんだん私の方に顔を近づけてきた。
『違う!』
私は一番端に座っているため、近づいてくる速水から逃れる事はできない。いや、逃げる事もできたはずなのに身体が動かなかったんだ。
近づいてきた速水の目が私の目を捕らえて離さないから何故か私も逸らす事ができずに速水の綺麗な青い目に惹きつけられるように私も見つめ返していた。
「琳…」
速水は私の
耳元でそう囁いた。
ドクン
きっと胸が高鳴ったのは速水がいつもより低い声で話したから驚いたんだろう。きっとそうに違いない…。
「名前‥呼べよ」
『…っ!…無理っ』
耳元に速水の吐息がかかって耳が熱い。
「‥あっそ。
絶対呼ばせるから
覚悟しろよ?」
そう言うと速水は私から離れバイクの元に向かった。
遠くなった距離に安堵(あんど)する。気持ちを落ち着かせてから外にいる速水の所に向かった。
「じゃ行くぞ」
速水は何もなかったように普通に話している。自分が変に意識したのがばかばかしい。
『えぇ。』
走ってる最中はお互い何も話さなかった。
――
―――
――――
『ここで良い。』
家から一番近いコンビニにバイクを止めた。このコンビニは彼方が私を皇帝に誘った場所でもある。
「嫌だ、家まで送る」
『そっちのが嫌よ』
「家まで送るって言ってんだからおとなしく送らせろ!」
『嫌。』
「チッ分かったよ。
じゃあな。」
『えぇ。』
コンビニで速水と別れ
家に向かった。