starting over
「でも、ビブリオバトルとか、トランペットソロとかは、さらっと出来ちゃうんですよね。」

ニコッと笑いながら、ほのはココアを一口飲んだ。

そう、得意分野のことは難なくさらっと出来てしまう。苦手克服で習慣付いたことも、いつの間にか得意分野に持っていったりする。

「ほの…」

彼女に甘えたくなり、デスクから立って、彼女の後ろに座った。ゆるゆると腕を伸ばして、後ろから彼女を抱き締めた。

「終わったんですか?」
「もうおしまいに…」
「ダメです。私も何とか終わらせないと、大野先生に叱られます。」

そう、二人揃って、今日は持ち帰り仕事に励んでいた。俺のアパートで過ごす時間に、仕事を持ち込みたくはなかったが、二人揃ってどうにもならなかった。

「あとちょっと頑張って、明日はゆっくりしましょ。」

ひろげた新刊情報とタブレットの書評情報を見ながら、ほのが言った。

「…ヤダ。」

クスクス笑いながら、ほのが振り返り、俺の首に腕をまわした。

「私だって、ぎゅーっとしたいです。」
「じゃあ…」
「ダメです。」

ケチ。ケチほの。

うじうじした気持ちでうつむいていたら、彼女が両手で俺の右手を包んでいた。少しの間、じっと見つめたあと、手の甲にキスをしてくれた。

「あとちょっと頑張りましょう。」
「…ハイ。」
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