溺愛御曹司に囚われて
思わず目の前の先生に視線で助けを求めると、先生はハッとなにかに気が付いたような仕草をして、人の悪い顔で笑った。
「おい高瀬、小夜は浮気を探るためにここに来たらしいぞ。まさかとは思うがお前、浮気してんのか?」
「はあ? 浮気ぃ? んなわけねえだろ。俺がどれだけこいつのことを……」
高瀬は胡乱な眼差しを先生に向け、まったく取り合わない様子であしらうように言った。
それでも腕の中で俯いている私に気が付くと、自信たっぷりだった声を途切れさせる。
「せ、先生、なんで言っちゃうんですか……」
恥ずかしい。
高瀬の浮気を疑ってこんなところまで追いかけてきておいて、自分は元恋人といるところを見咎められるなんて。
ここで一ノ瀬先生と会ったのは本当に偶然だったけど、今高瀬にそう言ったところで簡単に納得してはくれないだろう。
なぜ、たまたま再会した元彼に、いきなり頬をなでられるような状況になるのだ、と。
先生には、そんなことを言って欲しかったんじゃないのに!
できることなら、この場を丸く収めて欲しかった。
それを、反対に火に油をそそぐようなことを言うなんて。
私はこの人がちょっと子どもっぽくて大人げないところがあるってことを、すっかり忘れていた。
「小夜、お前、本気で俺の浮気を疑ってんのか?」
信じられないというようにワナワナと声を震わせて、高瀬がショックを受けた顔をする。
一ノ瀬先生はそんな高瀬を見て、いい気味だと言わんばかりにニヤニヤと笑う。
「高瀬、あのね……」
だって、私にも一応疑うだけの理由があるんだよ!
そう言いたかったけど、高瀬があまりにも気落ちしているように見えるので、なにから説明していいのかと迷ってしまう。