溺愛御曹司に囚われて
* * *
「質問はひとつだけだ」
部屋に帰り着くなり、高瀬は私をリビングのソファに座らせてそう言った。
ソファの背もたれに両腕をついて、その間に私を囲うようにして閉じ込める。
「あのリサイタルで一ノ瀬と会って、いったいなにをしていた?」
強気な口調とは裏腹に、高瀬の真っ黒な瞳が切なげ揺れている。
高瀬はズルい。
自分はスーツのポケットに他の女の口紅を入れて帰って来るくせに、私が先生といるところを見たらこんなふうに問い詰めてくるんだ。
だけど私は結局、彼に求められれば抗うことなどできない。
「昨日の夜、テーブルの上にリサイタルのチケットが置いてあったでしょ。チケットは二枚あったから、高瀬は誰と行くんだろうって思ったの」
私がポツポツと小さな声で話すのを、高瀬は黙って聞いている。
「それが気になって、行ってみたら、秋音さんって人といて……」
高瀬は形のいい眉をぐっとひそめた険しい表情のまま微動だにしない。
「えっと、そしたら男の人に部屋に行かないかって誘われて……そこを先生に助けられたの。だから、初めから先生と行ってたわけじゃなくて、高瀬が私を見つけてくれる少し前に偶然会っただけで……」
偶然会ったとはいえ、あんなところを見せられて高瀬がいい気分ではないことはわかっている。
先生に感じていたものと高瀬への気持ちは違うけれど、私だって彼をむやみに傷つけたいとは思っていないのだ。
高瀬がどうしてそこまでしてくれるのかはわからないけれど、私を大事にしてくれていることは理解しているつもりだ。