溺愛御曹司に囚われて

慌てて頭を下げる私を、秋音さんが高らかに笑い飛ばす。


「あはは! 違うのよ、怒りに来たんじゃないの。まあたしかに最初は、どんなひねくれた女か自分で確かめてやろうと思って、あなたの連絡先と会社の住所を聞き出したんだけどね」

「す、すみません、本当に」


私は首を縮めてペコペコと謝る。

秋音さんがほんの少し首を傾げると、長くて黒い髪がサラリと揺れた。
目を細めたときの優しい目もとが、高瀬にそっくりだ。


「だけど、あなたを一目見てすぐにわかったわ。私、人を見る目はある方なの。ハルちゃんはあなたが大事で、あなたがとてもいい子だから、なかなか紹介できなかったのね」


秋音さんはそう言ってフッと視線を逸らした。
店の外の、人の行き交う通りをぼんやりと眺める。


「私にも、そういう相手がいたことがあるの。でもうちって実家がちょっと特殊だし、家族や親戚への紹介も、パーティーへ同行してもらうことも、想像以上に相手の負担になるものよ。彼を本気で愛していたけど、結局その辺りがうまくいかなくて、お別れすることにしたの。私でこれなんだから、高瀬家の跡を継がなくちゃいけない立場のハルちゃんが、あなたのことに慎重になるのは当然ね」


私は秋音さんの話にジッと耳を傾け、これまでの高瀬の態度を思い出した。

実家のことや仕事のことをあまり話したがらないのは、本当に秋音さんの言うような理由からなのだろうか。
だとしたら私は、この先高瀬になんと言ってあげたらいいんだろう。

そう考えて、私は力なく首を振った。

たとえ高瀬が私をそこまで本気で大事にしてくれているのだとしても、今の私ではどうしようもない。
これ以上を求めるのはとても怖いし、彼にそうまで思われるほどの自信がない。

高瀬を失いたくない気持ちは確かだけど、一ノ瀬先生との初恋の強烈な感情に比べると、これを『好き』って気持ちだと認めていいのかわからない。

そんな状態のまま彼ときちんと向き合えるわけもないのに、私はいつまでも側にいてくれる高瀬に甘えている。
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