ねぇ、先生。

「あら、篠原先生」

保健医が戻ってきて、言葉の続きは口から出ることなく飲み込まれた。

この人が戻ってきたら言えない。

だけど、今日を逃すともう二度と言えないような気もした。


「…俺、戻りますね。咲良さんのことよろしくお願いします。」

あたしが言いかけたことが気になってるみたいだけど、先生はいつもみたいな口調でそう言って保健室を出て行く。

それでもやっぱり気になったのか、出て行く前にあたしを見て、名残惜しそうに出て行った。


「いい先生ね、わざわざ様子を見に来てくれるなんて。お礼は言った?」

「…はい、言いました。」

「そう、よかった。さっきお家に連絡したら、お母さんが迎えに来てくださるみたいだから。荷物まとめておいてね」

コクンと頷くと、安心したように笑って何か飲む?と言ってくれる。

すごく綺麗な人だと思う。

今さらかもしれないけど、この人は保健医にしておくにはもったいない。

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