【完】切ないよ、仇野君
どれくらいの時間、そうしていたんだろう。


泰ちゃんがそっと、私を自分の体から離した。


「……曖昧で、ゴメンな。それに、ちーん気持ちは無視してこげんこつして。やけん、泣かんで」


「や……泣いてない、泣いてない」


言葉とは裏腹に、私の目からは涙が出てきて止まらない。


大好きな泰ちゃんにファーストキスを奪われたなんて嬉しい筈なのに、何で……?


「ちーは優しかけん、俺ば責めきらんて分かっとる。ずるかよな。ちーは、ちーは椿んこつ、好きなん知っとるとに」


紡がれた言葉達は、思いもよらないものばかり。


『違う、私が好きなのは泰ちゃんだよ』って言いたいのに、今の私じゃ勇気がなくて言えないんだ。


「自分からしといてあれやけど、忘れて。ちーと気まずいんは嫌やから。……そろそろ戻らんと、怪しまるー。ゴメン、な」


去っていく泰ちゃんの背中を眺め、追いかけることも出来なくて、へにゃり、と地面にへたってしまう。


好きな人とキスしたのに、なのにどうしてこんなに切ないの?
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